終活

お寺と終活(2)
おひとり様が安心して弔われるために

私の終活

お寺と終活(2)

寺院デザイン 代表 薄井秀夫
前回、あるお寺で、あるおひとり様が亡くなったことをきっかけに、おひとり様が安心して暮らし、死んでいけるための仕組みをお寺につくったお話しを書かせていただきました。その際は仕事としてお寺のサポートをしましたが、実はその数ヶ月前にも、私の個人的なつきあいの中で、困ったことが起きていたのです。

おひとり様をめぐってのトラブル

ある日、私の古い友人から久しぶりに電話がありました。
用件は友人の母親が、あるトラブルに巻き込まれてしまったとの相談でした。

友人の母親は70代の方で、数日前に友人のA子さんが亡くなりました。
A子さんは80代の方で、10年以上前に旦那さんを亡くしました。ご夫妻の間には子どもはおらず、ご兄弟もいないので、まさに「おひとり様」で、ずっとひとり暮らしでした。
A子さんは、数年前からガンを患い入退院を繰り返していたそうですが、頼ることのできるのが友人の母親くらいだったそうです。
友人の母親は、入院の際には身元引受人になり、入院してからは必要なものを家に取りに行ってあげたりと、できるだけのサポートをしてあげていました。
A子さんもひとりで心細かったのか、友人の母親が病室に行くたびに手を握って「ありがとう」と言って涙を流したそうです。
ある日、本人から「私が死んだらお願いね、ここにお金を積み立てているからお葬式をしてね」と冠婚葬祭互助会の証書を渡されたそうです。

相関図相関図

そして、ついにA子さんは亡くなります。
友人の母親は、病院から連絡を受けるとすぐに駆けつけ、A子さんの遺体に寄り添いました。
身元引受人だった友人の母親は、病院から「すぐに、A子さんの遺体と所持品を引き取って欲しい」と言われたので、A子さんから渡された証書の互助会(葬儀社)に電話をし、遺体を互助会の安置室に搬送しました。
そして翌日から、友人の母親は様々な手続きを始めますが、A子さんがおひとり様ゆえのトラブルに巻き込まれてしまったのです。

トラブル1
死亡届が出せない

友人の母親が、区役所の戸籍係へ死亡届を提出したところ「あなたはA子さんの家族でないので、死亡届を出せない」と断られます。
いくら友人でも、血縁関係の無い人は出すことができないというのです。
そこで互助会(葬儀社)に相談すると「親類を探してください」の一点張りでした。

トラブル1 死亡届が出せないトラブル1 死亡届が出せない

トラブル2
互助会(葬儀社)の預かり金が使えない

互助会(葬儀社)には、A子さんから預かった証書を渡しましたが、こちらも「この預かり金を、あなたが使うことはできません」と言われてしまいます。
よく聞くと、証書には受取人にA子さんの亡くなった旦那さんの連れ子の名前が書いてあったそうです。
実は、この連れ子の方は行方不明で、旦那さんが亡くなった時も葬儀に来ることができなかったと言います。
これも、互助会(葬儀社)からは「ここに名前の書いてある方を探してきてもらわないと、このお金はつかえないです」の一点張りです。

トラブル2 預り金が使えないトラブル2 預り金が使えない

トラブル3
旦那さんのお墓に入れない

友人の母親はA子さんから「旦那さんの家が代々お付き合いしてきた菩提寺があり、旦那さんの遺骨もそのお寺に納められているので、自分もそのお寺に納骨をして欲しい」と言われていました。
そこで、その菩提寺に電話をして、以下を伝えます。
・A子さんが亡くなったこと
・A子さんは身寄りがないので、友人の自分が最後の面倒を見ていること
・葬儀はお金が無いので、お経をお願いすることができないこと
・火葬が終わったら、納骨にうかがいたいことを
ところが、電話に出た住職に、お経をお願いすることができないことをなじられたあげく「お墓を護る人がいない人の遺骨は、納骨できない」と言うのです。
友人の母親は予想もしない言葉に驚きながらも、A子さんと旦那さんを同じお墓に入れてあげたいと思い「なんとかなりませんか」とお願いしたそうですが、住職の答えは変わりません。
しばらく粘ったようですが、途中で住職の母親が電話に出てきて、「A子さんは何年も護持会費を払っていないし、お墓はもう誰も護る人がいないのだから、墓じまいの費用も払ってもらいたいくらいだ」と言い出します。
友人の母親は、もう訳がわからなくなって、泣きながら電話を切ったそうです。

トラブル3 納骨できないトラブル3 納骨できない

私のところに友人から電話があったのは、亡くなってから、そろそろ一週間が過ぎようとした頃でした。
私が関連の仕事をしていることを覚えていて、藁にもすがる気持ちで電話してきたのです。
死亡届も出せない、死亡届を出せなければ火葬もできない、互助会につみたてたお金を使うことができない、お寺も納骨に応じてくれない。
遺体が安置室にある状態で、前にも後にも行けないのです。
電話の向こうで、疲労困憊なのが手に取るようにわかる状態でした。

電話でいきさつを聞きましたが、ちょっと把握できないことも多かったので、翌日午前中に、友人の家に行きます。
小一時間ほど話を聞いて、だいたい状況が把握できました。
ひとりで抱えていた友人の母親は、さぞやたいへんだったろうなと思いましたが、こうした状況にあることをわかっていて、手をさしのべることをしない役場や互助会の担当者に腹も立ちました。
それ以上に腹のたったのはお寺です。なんて冷たいお寺だと思いました。

もちろん、彼らには、そうしなければならない義務はありません。
でも、「あなたは家族でないので死亡届を出せない」のなら、どうしたらいいのか、専門家ならアドバイスできるはずです。
お寺も、事務的に考えたらその通りです。法的には、何の問題もないでしょう。でも、もうちょっと何とか手をさしのべる方法はあるじゃないかと思います。

解決のために行ったこと

私は、すぐにでも怒鳴り込みたい気持ちになりましたが、気を落ち着けて、まずは互助会に電話です。
A子さんが積み立てたお金を、何とか使うことができないかということです。
これは難しいかなと思いつつ、ダメ元で電話しましたが、やっぱりそのお金を使うことはできないということです。
「後になって受取人の方が文句を言ってきたらトラブルになるので」と説明をしてきましたが、確かにその通りです。
残念ですが、しかたがありません。

電話を切ってから、今度は死亡届のことで区役所に向かいます。
死亡届は、家族・親族が提出するのが基本ですが、それができない場合、家主(病院や施設の代表者も含む)などでも提出することができます。さらに、自治体の首長が提出することもできます。
葬儀社のスタッフも役場の戸籍係も、これを知らないとは思えません。なぜ、その方法を教えてあげないのか、不思議でなりません。
私も知ってはいましたが、どういう手続きでどこの部署がこれを担当するのかがわかりません。

まずは総合受付に行って、事情を話しました。
すると、「すぐやる課」というのがあるので、そこに行くようにとのことです。すぐやる課で話をすると、今度は「福祉管理課」が担当すると教えてくれました。
そして福祉管理課に行き、事情を話します。
福祉管理課の方は、事情を聞くと、死亡届は区長が提出することができることを説明してくれました。
また、火葬などの費用は、行旅死亡人として扱うことで、区で負担することができることも説明してくれました。
納骨も、区の関係のお墓があるので、そこに納骨できるとのことです。
ただしその場合でも、この日まで葬儀社(互助会)でかかった分は、負担してもらわなければならないとのことです。
区が提携している区民葬儀取扱葬儀店ないと、区が負担することができないというのが理由です。
もう互助会につみたてたお金は使えないことはわかっていましたし、どちらにせよ、僧侶は呼ばず、知り合いだけで送るつもりのようでしたので、今後のことは、福祉管理課の方にお願いすることになりました。
福祉管理課の方は、とても親切で、説明もこちらがわかるまで丁寧にしてくれたことも印象的でした。

最後のお別れ

これで、ようやくA子さんのお葬式(火葬)が出来ます。
友人の母親は、A子さんの友人にも声をかけて、最後のお別れを行うことにしました。
互助会の安置室に数人の友人が集まり、ペットボトルのお茶を飲みながら、しばらく故人の思い出話をしました。
そして小一時間が過ぎた頃、お別れです。みな、思い思いの言葉をかけて、お別れをします。
友人の母親は、A子さんの自宅から持ってきた、旦那さんの写真をA子さんの手に持たせてあげました。
旦那さんと同じお墓に納骨できなかったことをとても残念に思い「今度、旦那さんのお墓参りをして、A子さんの遺品をこっそり供えてくるからね」と、声をかけてお別れをしました。
友人の母親は、この一連の出来事が終わって数日後に、熱が出て、寝込んでしまったようです。
何日かして、元気になったそうですが、それだけ心労があったということです。

A子さんの葬送は、とても充分なものではありませんでした。
悔いの残ることばかりです。
しかし、友人の母親のような、とても親身になってくれる人が、最後まで寄り添ってくれて、ほんとうに幸せなことだったと思います。

おひとり様にやさしい社会はくるのか

私は、自分の葬送のことが心配で、お寺に相談に来るおひとり様がたくさんいることも、聞いていました。
それを受けて、おひとり様の葬送を支援することを、お寺に薦め、またその仕組みづくりのサポートをしてきました。
そして今回、友人の母親からの相談で、家族のいない人が亡くなるというのが、いかに大変なことなのかを、身をもって実感しました。
法的な仕組み、あるいは現代社会のあり方など、この現代日本という社会制度が、家族のいないおひとり様にとても冷たいということです。
そして、友人の母親のような、善意で看取ろうとする人に対してですら、それを邪魔するような壁があります。

一方で、こうしたおひとり様の葬送を何とか支援したいと考えるお寺が多いのも事実です。
私の仕事は、お寺の運営サポートをする仕事ですが、おつきあいのあるお寺さんの中にも、こうした気持ちを持っている人は少なくありません。
もちろん、今回、納骨を断ったようなお寺があるのも事実ですが・・・

むしろ、こうした方々の支援をするのは、お寺以外には無いと思います。
お坊さんは仏教の専門家であると同時に、葬送の専門家です。
そして、知識も、環境も、そして人を救いたいと思う気持ちも、誰にも負けないはずです。
A子さんの場合も、元気なうちに、ある程度の用意をしておけば、こんなことにはならなかったはずです。
お寺は、そんな方々の相談窓口になることができるはずです。
(今回のようなお寺には無理だと思いますが)

こうしたお寺を増やしていくことで、この社会が、もっとおひとり様にやさしい社会になっていくはずです。
そうした思いをあらためて持つことになりました。

ABOUT ME
桑原 侑希
桑原 侑希 大手葬儀社にて、10年以上葬儀業に従事し約2000件の葬儀を行ってきました。葬儀のことは勿論、ご葬儀までの終活の相談や、葬儀が終わった後のご供養方法、各種手続きについての相談を受ける内に、その道のエキスパートに。皆さんの葬儀・終活にまつわる「なぜ?」にお答えします。
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