葬儀

「直葬」とはどのようなお葬式か?

多様化する葬儀スタイル

葬儀は、①規模、②形式(仏教式、無宗教式など)、③場所(葬祭ホール、自宅など)、④内容(故人らしさや家族の要望など)などから組み立てられます。
「規模」によって分けた葬儀の主な種類には、「一般葬」「家族葬」「直葬(ちょくそう)」の3つがあります。
「直葬」は、新しい葬送スタイルとして近年増えてきており、以下では「直葬」について説明します。

「直葬」とは?

「直葬」とは、一般的な葬儀とは異なり、通夜や葬儀・告別式などの宗教儀式は行わず、ご遺体を自宅や葬祭ホールなどで安置した後、火葬場へ運んで身内だけで火葬する葬送スタイルを言います。宗教儀礼を行わずに火葬することから、「火葬式」「火葬のみ」などとも呼ばれています。
「火葬のみ」は過去にもありましたが、身元不明者や生活困窮者など福祉的なサービスとして行われることが主でした。
それが15年ほど前からは、一般の人にも新しい葬送スタイルとして認知され、「直葬」を選ぶ人たちが増えてきています。
直葬の公式な統計データはありませんが、葬儀社などの民間会社の調査によると、首都圏では葬儀件数全体の3割を超えている葬儀社も多く、全国平均でも1割を超すようになってきているようです。

「直葬」が増加している理由

「直葬」が新しい葬送スタイルとして増えてきているのは、以下の理由からです。

1.死亡年齢の高年齢化

1番目の理由は、日本人の寿命が延びてきていることに伴い、死亡年齢も高年齢化していることです。
2017年の日本人の平均寿命は、女性は87.26歳、男性は81.9歳に達しました。70年前の1947年と比較して、女性は+33.3歳、男性は+31.03歳と大幅に伸びています。
死亡年齢が高年齢化すれば、葬儀に出席できる知人・友人なども少なくなります。
葬儀を行う意義の一つは、亡くなったことを社会的に告知することですが、その必要性が薄れたことにより、身内だけの簡単な「直葬」を選ぶ人が増えています。

2.人間関係の希薄化

亡くなったことを社会的に告知する必要性が薄れた要因は他に、人間関係の希薄化があげられます。
現代社会は、高齢化に伴い退職して亡くなるまでの期間が長期化して「社縁」(会社時代の縁)が薄れ、特に都市部では地域コミュニティーや近所とのつながりが弱いことから「地縁」(地域との縁)も希薄化し、さらには、核家族化の進展や家族・親族と離れて暮らす人が多くなったことなどにより「血縁」(血族との縁)まで薄くなってきています。
これらの人間関係の希薄化により、お付き合いで葬儀を行う必要性が薄れてきていると考えられます。

3.経済的要因

3番目は経済的な要因、つまりお金の問題です。
長期不況による収入減、長寿命化による介護・医療費などの出費増、喪主世代の老後不安などにより、葬儀に以前ほどのお金はかけられないという人が増えてきました。
そうした人たちにとって、一般の葬儀や家族葬に比べると、かかる費用が少ない「直葬」が選択肢の一つになってきました。

4.宗教観・価値観の変化

「直葬」は通夜、葬儀・告別式といった宗教儀礼は行いません。
これまでお葬式は、故人をあの世に送る宗教儀礼が中心でしたが、宗教心が薄れ、お葬式に対する価値観が多様化することによって、お金があっても「火葬のみ」で良いという人も増えてきています。

「直葬」の流れ

一般葬・家族葬の流れは、①臨終、②安置、③打ち合せ、④納棺、⑤通夜、⑥葬儀・告別式、⑦出棺、⑧火葬、⑨拾骨、⑩会食、です。
「直葬」は、このうち⑤通夜と⑥葬儀・告別式という宗教儀礼を省いた流れとなります。また、⑩の会食を省く人も多くなっています。
その結果、一般的な葬儀に比べて時間が大幅に短縮されるのが特徴です。
以下では、「直葬」の流れに沿って、内容や留意点などについて説明します。

直葬の流れ直葬の流れ

1.安置場所について

人は亡くなっても、死後24時間は火葬することを法律で禁止されています。
死亡場所は病院が約8割と多くなっていますが、病院には基本的には数時間しかいることができず、遺体は火葬までの間、どこかに安置しておかなければなりません。
安置場所としては、自宅で安置可能であれば、自宅へ搬送します。自宅で安置可能であっても、葬儀は行わないために「近隣に知られたくない」ことから、自宅を避ける人もいます。また、マンションやアパート住まいだと、特に都市部ではスペースの問題もあります。
自宅で安置が出来ない場合は、火葬場に安置施設が併設されていれば、そちらを使うことが出来ます。料金も1泊数千円から1万円程度と割安です。
しかし、安置施設が併設されていない火葬場もありますし、併設されていても夜間の安置は受け入れてもらえないところもあります。
もう一つの選択肢は、葬儀会社が葬祭ホールに併設している安置室です。この安置室は、葬儀会社により設置環境や造り、料金のレベルはいろいろあります。

2.安置場所での「枕経」について

「直葬」は、宗教儀礼は行いませんが、安置場所に僧侶に来ていただいて「枕経」をあげてもらうことはできます。

3.「出棺」について

火葬炉の前で最期のお別れをします。このとき、棺の中に「お別れ花」や、故人の愛用品などを手向けたりします。
また、僧侶に火葬炉の前でお経をあげていただく(炉前読経)ことも可能です。

4.「火葬」について

火葬には身内以外は呼ばないことが一般的ですが、故人と親しかった友人などに火葬に立ち合ってもらうこともできます。

5.「食事」「会葬返礼品」について

火葬が終わるまでの約1時間~1時間半は、ロビー待合室や控室で待機しますが、火葬場によってはその間に食事をすることができます。
待機中の食事では時間が短ければ、直葬終了後に、レストランなどで食事の席を設けて、故人をしのぶこともできます。
また、参列のお礼として渡す会葬返礼品を用意することもできます。

(注)葬儀会社が提供している「直葬プラン」「直葬セット」などの多くは、読経や食事、会葬返礼品は含まれていません。手配を希望する人は、葬儀会社に相談してください。

「直葬」の費用

「直葬」では、直葬に必要なものを「直葬プラン」「直葬セット」などとして用意している葬儀会社が多くなっていますが、費用は8万円~30万円くらいと幅があります。
この差は、主に以下の要因によります。

1.「火葬費用」

「火葬費用」は地域により、数千円~15万円と差があります。

2.「人件費」

直葬では使用する物品は少ないので、費用を下げるには人件費を下げるのが最も効果的です。しかし、人件費を下げると、人のクオリティも下がります。
直葬の費用が安いところは、従業員でも職歴が浅い場合や、パートやアルバイトなどを使うなど人のクオリティが低いところもあります。
従って、人のクオリティが低くても費用が安いところにするか、費用が高めでも人のクオリティが良いところにするかの選択となります。

3.「プラン内容」

費用が安い「直葬プラン」「直葬セット」などの中には、直葬に必要な物品やサービスが全て含まれておらず、追加料金を請求されるケースもあるようです。
直葬に必要な物品やサービスは、以下の通りです。
・搬送2回(病院から安置施設、安置施設から火葬場)
・安置施設使用料
・ドライアイス
・棺、骨壷、お別れ花などの物品一式
・火葬料・施設使用料
・火葬手続き代行
・運営スタッフ費用
 このほか、位牌、線香・焼香セットなどを含んでいることもあります。
 また、安置施設使用料やドライアイス料は、安置する日数によっても変わってきます。
 「直葬」の見積もりを取る時には、含まれている物品やサービス内容を確認しましょう。

「直葬」のメリット

今まで説明したことも含め、「直葬」のメリットについてまとめます。

1.費用が安い

「直葬」は、一般的な葬儀で行われる通夜や葬儀・告別式などを行わず、火葬炉の前で身内だけでお別れする葬送スタイルのため、一般的な葬儀で必要な式場使用料や花祭壇、料理、会葬返礼品などの費用がかからず、費用が安く済みます。

2.時間的な負担が少ない

葬儀・告別式を行わず、火葬後の会食なども行わないケースが多いので、一般葬や家族葬のような時間がかからず、時間的な負担も少なくて済みます。

3.参列者への応対が不要

「直葬」は、身内だけの少人数で行うため、大勢の参列者への挨拶や気配りは必要ありません。また、香典をいただいた方への香典返しなど、葬儀後の対応も最小限で済みます。

「直葬」のデメリット・注意点

「直葬」にはメリットがある一方、デメリットや注意すべき点もあります。

1.菩提寺へ納骨できない可能性がある

菩提寺がある場合は、一般的に、そのお寺の考えのもとに葬儀を行い、火葬後に菩提寺に納骨することになります。
多くの菩提寺は、読経を行わない葬儀は認めていません。そのため、お寺の許可を得ずに勝手に直葬してしまうと、菩提寺に納骨させてもらえないこともあります。
菩提寺がある方は、必ず事前に相談するようにしましょう。

2. 親族と揉める可能性がある

故人の遺志や、配偶者、子供の判断で「直葬」にしても、親族が反対し怒るという場合があります。
近年「直葬」は選択肢の一つになってはきましたが、「葬儀はしなければいけない。葬儀もしないなんて故人が浮かばれない」という考えを持つ人も多くいます。そのような親族に、直葬後に責められて、親族の関係が悪くなったという話もよく聞きます。
後日トラブルにならないように、親族に対しては直葬で行う旨を伝え、話し合いの場を設けて理解を得るようにしましょう。

3.お別れができなかったことを悔やむ人がいるかもしれない

直葬は基本的に身内だけで行うために、葬儀に参列できなかったことを悔やまれる人がいるかもしれません。
「なぜお別れをさせてくれないのか」、「最後に会わせて欲しかった」と、終わった後に、故人の友人など責められたという経験をした人もいます。
こうしたことが起こるのは、「故人のことをそこまで思ってくれる友人がいたことが、家族は知らなかった」ということもあります。事前にそういう友人がいないかどうかチェックして、参列してもらうかどうかを検討しましょう。
また、葬儀が終わってしまった後に責められたりしたら、弔問の機会を設けるなどの対応をしましょう。

4.遺族が後悔して悲嘆が長引く可能性がある

「直葬」で済ませた遺族から後日、「お別れの時間が短かったので見送った実感がわかない」、「お経をあげなかったが、ちゃんと成仏できたのか」、「何もしてやれなかったのが心残り」などの後悔の声も、聞かれます。
葬儀には大切な故人を失った遺族の悲しみを癒す効果(グリーフケア効果)もあるのですが、後悔があると自らを責める気持ちが生まれる場合もあり、悲嘆が長期間続くということもあります。
直葬には、こうしたデメリットもあるということを踏まえて、「直葬」にするかどうかを検討するようにしましょう。

ABOUT ME
桑原 侑希
桑原 侑希 大手葬儀社にて、10年以上葬儀業に従事し約2000件の葬儀を行ってきました。葬儀のことは勿論、ご葬儀までの終活の相談や、葬儀が終わった後のご供養方法、各種手続きについての相談を受ける内に、その道のエキスパートに。皆さんの葬儀・終活にまつわる「なぜ?」にお答えします。
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