ようこそ、毒親に苦労し、毒親に搾り取られてきた皆さん。
おそらく、それぞれの皆さんのストーリーがあり、ご苦労があり、現在に至っていると思います。
そんな毒親を持った方たちの最後のストーリーが葬儀です。
絶縁状態の方、嫌々介護をしている方、状況は様々でしょう。今回は、毒親の葬儀を行う必要があるのか?ということについて解説したいと思います。
目次
葬儀に関しての法的義務
葬儀に関する法律は、ほぼ一つしかありません。
それが、昭和23年に制定されている墓埋法(墓地・埋葬等に関する法律)です。
その中で、葬儀を行うものの義務についてこう規定されています。
第9条 死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。
おめでとうございます。
葬儀を行う法的義務があるのは、死亡地の市区町村長のみです。
子どもだからと言って、法的に葬儀を上げる義務はありません。
ただ、生活保護法には下記の規定があり、法律以前の社会常識として親族が葬儀を行うことが想定されていると理解するのが正しいのでしょう。
(葬祭扶助)
第十八条 葬祭扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
一 検案
二 死体の運搬
三 火葬又は埋葬
四 納骨その他葬祭のために必要なもの
2 左に掲げる場合において、その葬祭を行う者があるときは、その者に対して、前項各号の葬祭扶助を行うことができる。
一 被保護者が死亡した場合において、その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき。
二 死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において、その遺留した金品で、葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき。
ここにいう扶養義務者とは、配偶者、直系血族(親や子など)、および兄弟姉妹などを指します(民法第 752 条、第 877 条)。また、戸籍法第 87条は、死亡届の提出義務を、同居の親族、その他の同居者、および家主等が負うと規定しています。
相当のプレッシャーをかけられますが、病院や警察で亡くなった毒親の遺体を引き取りを拒否しつづければ、唯一の義務者である市区町村長が火葬を行います。
法的義務はないが、相応の社会通念上の責任があるというのが現在の実態です。
当然、警察や病院は、直系の子だけでなく、わかる限りの親族その他に連絡を行いますので、拒否している事実は親族に伝わると思っておいてください。
兄弟(喪主になる候補)が他に居て、完全に絶縁状態で、相続放棄をする予定であり、葬儀に参列もしたくなければ、完全無視でも問題ありません。
その場合、相続放棄だけは後日、しっかりとしておきましょう。そうしないと相続争いに巻き込まれる可能性があります。
相続を放棄するだけなら、非常に簡単です。
・死亡届を提出した後の戸籍謄本(親が死亡の記載のある戸籍謄本)
・収入印紙800円
・切手470円(内訳:84円5枚,10円5枚)
・相続放棄の陳述書
を裁判所に郵送するだけです。
相続放棄をして完全に毒親と縁を切りましょう。
毒親に他の親族が葬儀を行った場合でも、葬儀費用の支払い義務はある?
次に、親族や他の兄弟が毒親の葬儀を上げた場合、葬儀費用を負担する義務はあるのか?ということですが、現状、明確な法律や判例はありません。
まず、確定している部分からお話しします。
葬儀費用と相続財産
葬儀費用は、相続される財産(負債)に含まれません。
これは葬儀が、相続人が死亡後に行われるものだから、という理由です。
家族・親族が葬儀費用を負担することになります。
では、親の口座から葬儀費用を捻出することができるのか?ですが、2019年7月1日から相続法(民法の相続規定)が改正され、
故人の戸籍謄本(死亡の記載のある戸籍謄本)と、自分自身の身分証明書があれば、
預貯金 × 1/3 × 法定相続分か150万円の少ない方を、故人の口座から引き出せます。
例:故人(父)の預金残高の合計が300万円で、母と長男と私の二人兄弟の場合。
300万×1/3=100万円
母の法定相続分(1/2)、長男(1/4)、私(1/4)
100万円× 1/4 = 25万円
ただ、これは相続の前払い分(仮払い分)に当たり、相続放棄をする場合は、返還しないとしないといけないので、毒親と縁を切りたい私たちには意味のない制度です。
故人(毒親)のお金で葬儀を上げて、縁切りを完了することは難しいです。ほかに家族(相続人)がいない場合は、この仮払いで葬儀を終えましょう。
その場合も、相続は限定承認の手続きをとっておいた方がいいと思います。
そもそも、相続は資産も負債も合わせて相続するのが原則です。限定承認の手続きは、資産-負債がプラスの場合は相続するが、マイナスなら放棄するという手続きです。
毒親は見栄を張るケースが多いと思います。資産家でも、資産を超える借金が後で発覚した時に、負債について責任を負う可能性がゼロではありません。
限定承認は、そのリスクを回避できます。
結局、だれが葬儀費用の支払い義務があるのか?
縁を切りたい毒親の葬儀を家族や親族の誰かが勝手に執り行ってしまった場合、その葬儀費用は直系の子どもである私たちに法的責任があるのか?ということですが、高裁判例で最高裁判例にはなっていないので法律と同等の効果は期待できませんが、下記のような判例があります。
平成24年3月29日名古屋高裁判決
「葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用と解されるが、亡くなった方が予め自ら葬儀に関する契約を締結してするなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担について合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主催した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。」
簡単に言えば、事前の合意がない場合、葬儀を頼んだ人が葬儀費用の支払いの責任があるということです。
直系の子だからとはいえ、「葬儀費用を負担する」という言質を取らせなければ、私たちに葬儀費用を負担する義務はないということです。
例によって社会通念上の問題はありますが。
毒親と祭祀の継承者
ここは、毒親に悩まされ続けた長男の方が、さらに悩みを深めるコーナーです。
祭祀の継承者という概念をご存知でしょうか?。祭祀の継承者とは簡単にいうと、仏壇や仏具や墓を受け継ぎ、49日法要や一周忌、三回忌などの年忌法要を主宰する役割を持つ者のことを指します。祭祀の継承者は下記のように決定されます。
民法
第896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
第897条(祭祀に関する権利の承継)
1 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
遺言や生前の言葉によって別に祭祀の継承者が指定されていない場合、慣習によって決まります。
慣習=長男です。もめた場合、裁判所が決めてくれますが、ほぼ慣習=長男です。
相続財産は放棄できますが、祭祀の継承は放棄できません。これも、社会通念上、放棄する人がいないことが前提になっています。
朗報:祭祀の継承は、放棄できないが放置と処分はできる
もし貴方が長男もしくは一人っ子の場合、祭祀は継承されますが、年忌法要を行わないからと言って罰則規定はありません。
何もしなくても、全く問題はありません。
また、仏壇や位牌があっても、ゴミとして捨てても、継承者の権限において処分することができます。
ただお骨だけは、その辺に捨てたり、ゴミとして捨てると墓埋法に抵触します。墓埋法では墓地以外にお骨を埋めることを禁じています。下手をすると死体遺棄罪に問われます。実際に妻を恨んでいた夫が妻のお骨をスーパーのトイレに捨てて死体遺棄罪で逮捕されています。
だから、とにかく安く処分したい場合、安い合祀墓に入れるか、散骨ことをお勧めします。
合祀墓:30,000~50,000円
代理散骨:20,000~55,000円
程度で処分できます。
お寺の中にお墓がある場合、墓を返還し、処分するには、墓地を更地にする費用や墓石の処分費、お寺へのお布施等で最低50万円はかかると考えておいた方がいいです。
いわゆる「墓じまい」というものですね。公営墓地だとそこまでかかりませんが、同じように更地にして返還する必要があるので、ご注意ください。
個人的には、毒親に悩まされてきた長男の方は、墓にも入れず、戒名も付けず、海へ散骨して綺麗さっぱり処分してしまうのをお勧めします。
散骨も、お骨を骨だとわからないように粉(粉骨)にしてから、公海上まで出て処分しないと死体遺棄の可能性があるのでご注意ください。
業者に骨壺用郵パックで送り、処分してもらうことが一番良いかと思います。
当然ですが、親族からとやかく言われる可能性はあります。
親族から色々言われるのが嫌で喪主にならざるを得ない場合に、葬儀で接触を最小限にする方法
皆さんの中には、完全に縁を切ることが難しい方も当然いらっしゃるかと思います。
建前だけでも葬儀を行う必要がある方のために、とにかく接触を最小限にして葬儀を乗り切る方法をご紹介します。
毒親を直葬する
直葬もしくは火葬式という葬儀形態があります。
これは、通夜・葬儀・告別式というような式典を一切やらない葬儀形態で、死亡後に24時間置き、直接火葬場に持ち込み火葬をするという葬儀形態です。
24時間置くのは、墓埋法で「原則として、死体は、死後(もしくは死産後)24時間以内は火葬してはならない」と規定されているからです。
都市部では現在20%程度は直葬・火葬式だと言われています。
直葬は、経済的事情や独居世帯の増加、親族の高齢化により選ばれる割合が年々増えています。
うるさく言う親戚がいないなら、毒親の葬儀には直葬をお勧めします。
本当に焼いて終わりなので、うるさく言う親戚がいるなら、お勧めしません。
病院から死亡の連絡をうけたら
病院から死亡の連絡を受けたら、葬儀社に何社か電話しましょう。
その際は、
①火葬式・直葬をお願いしたい。
②親とは不仲なので接触を最小限にしたい。
③安置は自宅ではなく別の場所でお願いしたい。
④病院には行って死亡届を渡すので、火葬が終わったら、お骨は散骨会社へ郵送してほしい。
⑤火葬場の立合いは行わないが問題ないか。
と言ってみてください。
①~④はほぼどの葬儀社も問題なくOKするはずです。
⑤の火葬場の立合いは、葬儀社によって異なります。火葬費用を直接喪主が火葬場に支払う会社もあれば、立て替えて請求する会社もあるからです。
立合いを行わなくても良い会社を探しましょう。
親との不仲については、葬儀社側ははっきり言ってもらった方が楽です。葬儀という場は、これまでの家族関係が表に出る場所なので、葬儀社の人間は愛にあふれた葬儀の場面にも立ち会いますが、不仲で兄弟がスタッフを通してしか会話しない崩壊した家族の葬儀も行っています。別に良くあることなので気にする必要はありません。
この方式のメリットは一切、親の顔を見る必要がないことです。
病院へ行って医者から死亡届を受け取り、入院費を清算する必要はありますが、病室や霊安室に入って親の顔を見る必要はありません。
医師から受け取った死亡届を、その場で葬儀社の人間に渡せば、完了です。
散骨会社は、自分で探して指定するか、もしくは葬儀社は大抵どこかの散骨会社と提携しているので、散骨も併せて依頼しても大丈夫です。
死亡届の提出義務は親族にありますが、慣習として葬儀社が代行し死亡届の提出と埋火葬許可証の受け取りを行っています。
直葬+代理散骨で費用は30万円ほどあれば大丈夫です。
親族の手前、毒親を葬儀をせざるを得ない場合
親族の手前、どうしても葬儀をあげざるを得ない場合ですが、この場合の対策をあまりありません。
実際に私が担当したお客様でも、打ち合わせの段階から親族の女性二人挟まれながら、嫌々喪主をやることになっていた方がいらっしゃいました。
「やればいいんだろ」と常に呟かれていましたが、葬儀当日、お見えにならず、葬儀場では親戚同士が罵り合い大変なことになっていました。
後日、その方から聞いたのは、「出席するということは、父親に負けを認めることになる。どうしても行けなかった」とおっしゃっていました。
詳しくは聞いていませんが、根深い問題があったことは推測できます。
毒親の喪主として、葬儀をあげる方には、数日を乗り切れば親はもう出てこないので耐えましょう、としか言えません。
①子どもに親の葬儀を上げる義務はない。遺体の引き取りを拒否し続ければ、市区町村長が火葬する。
②葬儀費用の負担は、依頼した人に支払い義務がある。
③まったく顔を合わさずに、直葬し遺骨もそのまま散骨する方法もある。
④祭祀の継承は拒否できないが、処分する権限もある。
今回は、毒親の葬儀のお話をしました。
上記のよう葬儀の義務はありません。
そのうえで、喪主になるか、出席するのかは皆さんの判断になると思います。
「親は子を愛し、子は親に報いる」という社会通念と常識が毒親の被害者の皆さんの一番の敵かもしれません。
そのうえで、やらなければいけないこと、やらなくてもよいことという判断基準を与えられたらと思って本記事を書かせていただきました。
少しでも、お役に立てればうれしいです。
追記:毒親に対する扶養義務
「毒親 扶養義務」で検索されてこのページにたどり着かれる方が多いので、毒親に対して子は扶養義務があるのか、について追記させていただければと思います。
そもそも扶養義務って何?
扶養義務に関する法律は、民法にあります。
第877条【扶養義務者】
1)直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2)家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3)前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
毒親でも、直系の血族である限り、扶養義務はあります。
ただし、条文にない解釈知識になりますが、扶養義務には、二つあります。
生活保持義務と生活扶助義務です。
生活保持義務とは?
生活保持義務とは、夫婦がお互いを扶養したり、親が幼い子を扶養する義務です。
親は扶養義務者として、自分と同程度の生活水準を、夫婦間、幼い子に対して提供する義務があります。
貧しければ、貧しいなりに、豊かなら、豊かなりに、毒親自身と同程度の生活を提供する義務があるのです。
親が子を搾取したり、子を経済的ハラスメントをする場合は、親は扶養義務に違反していることになります。
生活扶助義務とは?
生活保持義務とは、簡単に言えば、「余裕があったら助け合おうね」という義務です。
自身の生活を犠牲にせず、自身の配偶者や幼い子の生活を優先させたうえで、なお余裕がある場合、助けてあげる義務になります。
生活扶助義務の対象となるのが、兄弟姉妹や、子が老親を扶養する義務です。
忘れないでいただきたいことは、毒親を資金援助する可能性が出てきた場合、「自分自身や自分の家庭を犠牲にしてまで、援助する必要はない」ということです。
また、生活保持義務に、順位はありません。どういうことかと言うと、長男だから援助する必要があるとか、長女だから多く援助しないといけないということはないのです。生活保持義務は、直系の血族、兄弟姉妹が相互に持っているものなので、その時、余裕がある人が援助すれば、いいのです。
また、現在、例えば、あなただけが親の援助している場合、兄弟姉妹は連帯して扶養の義務を負っているので、その費用の一部を他の兄弟姉妹に求めることもできます。過去5年分の一部を請求することは、過去判例でも認められています。
扶養義務の発生と、親が毒親だったことによる扶養義務に関する影響
扶養義務が発生する場合の要件は以下になります。
(a)一定の親族関係にあること
(b)扶養権利者が要扶養状態にあること
(c)扶養義務者に扶養能力があること
(d)扶養権利者から扶養義務者への請求があること
(a)直系の親子で、
(b)毒親が困窮し、
(c)子が援助できる状態にあり、
(d)毒親から、援助してほしいという申し出がある
というのが、法的要件です。
ここで問題になるのが、Cの扶養能力です。扶養義務者(子)と扶養権利者(親)の能力についての見解は、相当離れているケースが多いでしょう。
法的に年収いくらの場合、いくらの扶養能力があり、いくらの援助をしなければならない、というようなルールはありません。
あくまで、当事者間の話し合いによるので、年収1億でも、フェラーリを毎年買い替えていても、双方の合意を得ることができず、援助できないというケースはあり得ます。
「自分自身や自分の家庭を犠牲にしてまで、援助する必要はない」のですから。
合意が整わないず、扶養権利者(毒親)が家庭裁判所に申し立てた場合、裁判所により、審判されます。
審判の中には、これまでの親子関係が考慮されますし、双方の収入も考慮されます。
扶養申立を行った父親と子との間の不和について父親に相当程度帰責事由があるため,信義則上扶養料の制限は受忍すべきとして,相当程度減額された扶養料の支払が命じられた
秋田家裁昭和63年1月12日審判
扶養申立を行った父親と子との間の不和について父親に相当程度帰責事由があるため,信義則上扶養料の制限は受忍すべきとして,相当程度減額された扶養料の支払が命じられた
新潟家裁昭和47年5月4日審判
など、という判例があります。
なので、親と不仲であり、その原因が親にあることが認められれば、減額されます。
毒親に対する扶養義務を怠った場合の罰則
罰則はありません。
ただ、義務を免れることもできません。
血のつながりというのは、大変ですよね。
追記2:毒親(老親)と介護義務
時々、見る文言ですが、「介護は実子の義務」だから、、、、みたいなセリフを見かけます。
これは、実に大きな誤解だということについて、今回は追記します。
さて、介護は実子の義務でしょうか?。
答えは、義務でした(明治民法下では)。
これって、結構な方が勘違いされていますが、実は現在の日本の民法下においては、介護義務は誰の物でもないのです。
明治民法下の扶養義務
まずは、明治民法の条文から見てみましょう。
第26条(明治23年公布)
直系ノ親属ハ相互二養料ヲ給スル義務ヲ負担ス嫡母,継父又ハ継栂卜其配偶者ノ子トノ間及ヒ婦又ハ人夫卜夫家又ハ婦家ノ尊属トノ間モ亦同シ
明治民法下においては、問答無用で直系親族は相互に養料する義務を負っていました。
養料とは、二つの意味があり、「金銭的給付」か、金銭的給付の代替として現物給付する「引き取ってともに養うこと(引取扶養)」です。
父母に、子どもの前段で言う生活保持義務があるように、子どもも親に生活保持義務がありましたし、それは老親の介護の義務でもあり、いわゆる「引き取り扶養」の義務を相互に持っていました。
家制度の名残であり、「長男の嫁に介護の義務がー!」のもとはおそらくこの明治民法にあります。
この金銭的給付か、引取扶養の義務か、どちらかを果たす義務が明治民法では課されていました。
現在の法律においての扶養義務
さて現行法においての扶養義務を確認してみましょう。
第877条【扶養義務者】
1)直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
養料ではなく、扶養になってますね。
扶養とは金銭的給付のことです。現行の民法下においては、引取扶養の義務は無くなっています。
条文通り解釈すると、毒親の介護義務(引取扶養義務)は無いことになります。
民法上の解釈においては、
毒親(老親)自身が誰かに介護してほしいと思った場合、
1)公的サービスや第三者の介護サービスを自ら利用し、
2)自ら金銭的負担を行い、
3)その金銭的負担が耐えられないものである場合、
4)直系血族(子)に扶養義務の履行(金銭的負担)を要請ことができます。
この金銭的負担は、あくまで生活扶助義務であり、「自分自身や自分の家庭を犠牲にしてまで、援助する必要はない」のです。
このことは立法府もわかっているようで、老人福祉法における扶養義務者についての条文はこうなっています。
(費用の徴収)
第二十八条 第十条の四第一項及び第十一条の規定による措置に要する費用については、これを支弁した市町村の長は、当該措置に係る者又はその扶養義務者(民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者をいう。以下同じ。)から、その負担能力に応じて、当該措置に要する費用の全部又は一部を徴収することができる。
第十条の四第一項及び第十一条の規定とは、居宅介護と老人ホームへの入所のことなので、居宅介護や老人ホームの費用については、負担能力に応じて、直系血族が負担する義務があることは明確なようです。
もちろん、助けたいと思える相手であれば、建前を抜きにして介護を行うことは、何一つ禁止されていませんし、双方の合意(介護してください⇔介護します)があれば、法律よりも優先されます。助けたいと思える相手であれば。
さて、結論です。
Q.毒親(老親)が介護が必要になったときに、介護を行う義務があるのは誰でしょうか?
A.介護を行う義務は誰にもない。介護費用の負担については、直系血族(子)に義務はあるが、「自分自身や自分の家庭を犠牲にしてまで、援助する必要はない」
以上追記2でした。
もちろん、法的要件とは別に、個人的な感情や関係性により様々な選択肢があってしかるべきです。
ただ、最低限、だれにも義務がないものを、自らの意思をもって行うのでしたら、それは素晴らしいことだと思います。
この記事が、あなたの選択の一助になるといいなと思っています。