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納棺師とは? NHK『プロフェッショナル』で紹介された、おくりびとの役割
NHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』(2019年5月28日放送)で、納棺師の木村光希さんが紹介されました。
映画『おくりびと』では、本木雅弘さんが演じ、注目されるようになった納棺師。故人の最後の姿を参列された方の記憶にとどめてもらうために、大切な役割を担っている納棺師について紹介します。
納棺師の役割のひとつは、お通夜の前に故人の身支度を整えること
亡くなった故人を棺に納めることを納棺といい、一般的にはお通夜の前に行われます。
この納棺の儀式をお手伝いをするのが納棺師です。
本来、お通夜は故人を布団に休ませて、家族と最後の一夜を過ごす時間でした。
しかし、近年は日中に仕事をしている方や学校に通っている方が参列しやすいという理由から、葬儀・告別式よりも、お通夜に参列する方が増えました。
その結果、お通夜の段階で祭壇を設けて、読経・焼香を行うスタイルが定着しています。
納棺の儀式では、納棺師がお通夜の前に、故人が旅立つための身支度を整えます。
それでは、納棺師はどのようにして、故人の身支度を整えるのでしょうか。一般的な流れを紹介します。
湯かんを行う
納棺の儀式では、まず故人の体を洗い清める儀式として湯かんを行います。
古くからある習慣ですが、最近では、給湯や排水の機能を備えた専用車があり、簡易風呂のような設備を部屋に設置して、湯かんを行うことができます。
病院で亡くなり、看護師の手で洗い清められ、清潔な衣服に着替えている場合は、湯かんを終えていると考える方もいます。
死装束を着せる
死装束はあの世への旅支度のために身に着ける巡礼着です。
湯かんで清められた故人に、経帷子や手甲、脚絆をつけて、頭には三角の頭巾をつけ、白足袋にわらじを履かせて、三途の川の渡し賃である六文銭を入れた袋と杖を持たせて、旅立ちの準備を整えます。
最近では死装束にはこだわらず、故人が愛用していた服を着せることもあります。
死装束に着替えるのは仏教の中でも、浄土真宗以外の宗派の場合です。
メイクを施す
「元気だったころの姿でお別れしてほしい」「化粧を欠かさなかった母のために」といった家族の依頼で、メイクを施すこともあります。
故人の写真をもとに、生前と変わらない、自然なメイクで表情を整えます。
納棺する
最後に、家族とともに故人を棺に納めて、棺に蓋をします。
家族にとって、納棺する時に、故人とともに旅立つ、思い出の品を選ぶことが、故人への供養となります。
ただし、棺に入れることができないものもあります。
火葬のときに一緒に燃えないもの、燃えにくいもの、燃やすと有害な物質が発生するものなどです。
眼鏡や入れ歯、貴金属品などは、棺に手向けることができなことを事前に伝えておくことも、納棺師の務めといえます。
故人の体を守る処置を施す
故人が亡くなってから葬儀を行うまで、時間が空く場合があります。
大切なお別れの時を迎えるまで、故人の体を守ることも納棺師の役割の1つです。
具体的には、ドライアイスで故人の体を冷やして、腐敗の進行をとどめます。
また、家族の依頼によっては、エンバーミングという処置を施すこともあります。
故人に防腐効果のある薬剤を注入するなどの処理によって、故人を生前のままの姿にとどめることができます。
納棺師として、木村さんが大切にしている2つのこと
このように、納棺師は故人と家族のお別れの儀式のひとつである、納棺をお手伝いしています。
NHKの番組で紹介された木村さんは、この納棺の儀式で大切にしていることが2つあると語っています。
納棺は、家族と行う儀式
納棺の儀式は、基本的には納棺師や葬儀社のスタッフが行うものです。
しかし、納棺師の木村さんは、できる限り家族にも参加してもらえる納棺の儀式を心がけています。
家族が大切な方の死を受け止め、見送ったことを実感してもらうためだと、木村さんはNHKの番組で語っています。実際に、湯かんでは、家族の手で故人の体を拭いてもらったり、故人の棺に納めるときも一緒に納めるようにしています。
「あえて家族と行う納棺にしているのは、ひとつの信念がある」という木村さん。
「生きている方々も少しでも死というものを感じてもらって、今生きていることに感謝をしてもらったり、生きていることを再認識してもらう。そのことで、生きている私たちに何か重要なものをくれるんじゃないか」という思いがあるからだそうです。
納棺は、生きた証を残す儀式
木村さんは納棺の儀式で、もうひとつ大切にしていることがあります。それは、故人の生きた証を残すことです。
NHKの番組の中で、木村さんは故人に施すメイクについて「表情からいろんな思い出話だったり、その人らしさが出る。個性として残すべきところはしっかり残す」と答えています。その木村さんの姿勢をNHKの番組では映像に収めていました。
映像では、亡くなったお母さんのメイクを依頼した娘さんがインタビューに答えています。
その娘さんは、ガンを患い、長い入院生活の末に亡くなったお母さんの顔が黄色くなる、黄疸の症状をメイクでわからないようにしてほしいと、納棺師の木村さんに依頼していました。
「化粧を欠かしたことがない母の最期をきれいに送ってあげたい」という思いからです。
しかし、木村さんは、そのお母さんの額に残る傷跡を、あえてメイクせずに残していました。
メイクを終えたお母さんの顔を覗き込む娘さんは、額の傷跡を見つけて、13針縫って、ネットかぶって帰ってきたお母さんの思い出を親戚に語り始めました。
こうした納棺の儀式を行う木村さんについて、高野山高祖院の飛鷹全法住職は、NHKの番組の中で次のように語っています。
「死をなるべく人の目に触れさせない社会の在り方になっている。私たちが日々生きているうえで、ある種の救いなんだけれど、本当の死に直面した時に立ち往生してしまう。彼みたいに若い方が、新しい感性によって、死をネガティブではない形で受け入れることができるということを導いてくれる、そんな存在」
美しく、丁寧に送ってほしい。
そうした家族の想いを受けて、納棺師としての処置を施すだけでなく、大切な方とのお別れと向き合い、送り出すことができたと思える場を作ることも、納棺師の役割ではないでしょうか。
葬儀のすべてを取り仕切る納棺師も
最近では、納棺師が納棺の儀式をお手伝いするだけでなく、葬儀全体をお手伝いするケースも見られるようになりました。NHKの番組で紹介された木村さんもその1人です。
通常の納棺師は、葬儀社から依頼を受け1時間ほどで故人の身なりを整え、納棺の儀式を行います。
しかし、納棺師の木村さんは、故人に合わせた、その人らしい納棺を行うため、葬儀全体を取り仕切る葬儀社を設立。
NHKの番組では、故人の人となりや思い出をヒアリングするため、時間をかけて家族との打ち合わせを行う様子が紹介されました。
亡くなったお父さんの葬儀を木村さんに依頼をした息子さん。
打ち合わせの中で、幼かった頃を思い出し、お父さんが家族を置いて家を飛び出したこと、その時のわだかまりを抱えたまま、お別れの時を迎えてしまったことに後悔していることを、声を震わせながら木村さんに伝えていました。
亡くなったお父さんは釣りが好きだったことから、棺に愛用の釣竿を納めたいという息子さんの話を受けて、木村さんは、息子さんがお父さんに伝えたかった想いを伝えるために、紙で作った釣竿と、紙粘土で作ったサケを用意。
息子さんからお父さんへのメッセージが書けるように、あえて色を塗っていない真っ白なままのサケを息子さんに渡すと、サケにはこう書かれていました。
「ありがとう、おつかれさま」
木村さんに葬儀を依頼した方の中には、次のように語る方もいました。
「彼がもたらしてくれているのは時間だと思います。故人となった父とのすごく大切な時間、その時間を作ってくれていました。その最後は、遺体ではありませんでした。生からつながったまま、そこに父はいました」
時間をかけて、残された家族と対話し、亡き人のことを知る。そして最後の時を共に歩む。
木村さんが葬儀をお手伝いするうえで、心がけていることです。
「人一人が亡くなってしまって、その姿はもう見られなくなってしまう。新しい残された人の人生がある。そのときに前を向いて生きてほしい。」
まとめ
従来の納棺師は、故人を棺に納める、納棺の儀式を取り仕きる役割を担うだけでした。
しかし、木村さんのように、故人に合わせた、その人らしい葬儀を行いたいと考える方もいます。
どちらの納棺師がいい、悪いではなく、どのような葬儀を行いたいのか、あなたの考えにふさわしい納棺師を選びましょう。