墓地・霊園関係の中でマスコミでも良く取り上げられ、いま最も話題になっているのは「墓じまい」です。
そこで、墓じまいの意味や件数、要因、手順・手続き、費用、留意点などについて説明します。
「墓じまい」とは?
「墓じまい」とは、墓石を撤去し、墓所を更地にするなど元の状態に回復させた上で、土地の使用権をお寺やお墓の管理者に返還することです。
いわゆる「お墓の処分」を意味することから、あたかもお墓を持つことを止めて、遺骨をどこかに処理してしまい、供養することを放棄することと考える人も多くいるようです。
しかし、法律上は、お墓に納められている遺骨を勝手に取り出して別の場所に納骨したり、廃棄したりすることはできないことになっています。
遺骨は次の場所に安置する必要があり、それも新旧のお墓の管理者や自治体から証明書を発行もらうなどして、ようやく元のお墓を更地にすることができるのです。
元のお墓を更地にした上で、遺骨を別のお墓や納骨堂などに移して供養する一連の過程を「改葬」と言います。いわばお墓の引っ越しのことです。
「墓じまい」という言葉は、厳密には、改葬=お墓の引っ越しの過程の中の、「お墓を閉じる」という部分だけを指す言葉なのです。ですから、「墓じまい」が、「遺骨、供養の放棄」と考えるのは誤解です。
一方、「墓じまい」とは、改葬、お墓の引っ越しのことと考える人も増えてきています。
本サイトでも、その流れを踏まえて、原則的には、「墓じまい」=「改葬」=「お墓の引っ越し」と扱って説明していきます。
墓じまい件数の推移
墓じまいは、どのくらい行われているのでしょうか。
厚生労働省の「衛生行政報告例」では、改葬数を統計しており、それによると以下のようになっています。
改葬の件数は、ここ8年ほど、ほぼ右肩上がりで増加しています。
2009年度は7万2,050件であったものが、2017年度には10万4,493件へと8年間で45.0%も増加しています。
この件数の中には、墓の所有者が分らない「無縁墓」(のちほど説明します)の件数も含まれています。
これを除いた、お墓の所有者による意識的な墓じまいの件数は、2009年度は6万9,375件だったものが、2017年度には10万1,109件へと45.7%へとさらに増加しています。
都道府県別では(2017年度)、墓じまいの多いところは、東京8,627件、北海道7,638件、神奈川5205件、千葉4,900件、静岡4,192件の順になっており、首都圏が多くなっています。
一方、墓じまいが少ないところは、福井159件、山形341件、徳島416件、石川494件、富山510件の順で、北陸地方が多くなっています。
墓じまいする要因
墓じまいが増えてきた社会的背景は、少子高齢化や未婚率の上昇などによって核家族化・単身世帯化が進んできたことだけでなく、価値観・宗教観の変容によってお墓に対する考え方が変わってきたことも挙げられています。
つまり、単純に「お墓を守り継ぐ人がいない」というだけでなく、子供がいるにも関わらず、「墓のことで子どもに負担をかけたくない」などの価値観から、墓じまい=改葬を考える人なども増えてきています。
以下は、墓じまいする主な理由をまとめたものです。
お墓を継ぐ人がいない
少子高齢化による核家族化や単身世帯の増加によって、引き継ぐ人がいない人が増えている。
お墓が遠方にある
就職、転勤、結婚などで故郷から離れると、お墓のある場所が遠くなり、経済的にも心理的にも管理の負担が大きく、墓守りしていくのが難しい。
夫婦それぞれの実家のお墓を守るのは大変
一人っ子や長男長女同士が結婚した場合などには、それぞれの実家のお墓を引き継いで守っていくことになり、負担が大きい。
高齢になると、お墓参りにいけない
日本人の平均寿命は、男女ともに伸び続けていますが、高齢化すると共に外出が不自由になり、お墓参りに行かなくなる高齢者も増えている。
墓じまいをしないとどうなるか
お墓を継ぐ人がいないのに、墓じまいをしないとどうなるのでしょうか。
放置されたままのお墓となり、これを「無縁墓」と呼んでいます。
無縁墓になると悲惨です。手入れがされていないので、墓地周辺の草木は伸び放題で、墓石はホコリまみれとなります。墓石はさらにはヒビが入って傾いたり、倒壊したりします。
このような無縁墓が全国で増えてきています。
熊本県人吉市では2013年、市内にある民営墓地約700ヵ所と市有墓地(市が所有する土地にある墓地)14ヵ所で、墓の承継の実態を調査しました。
その結果、民有墓地1万2342基のうちの約4割(4561基)が無縁化し、市有墓地2786基は何と約7割(1913件)が無縁化していることが分かりました。
これは氷山の一角で、全国で「無縁墓」が増えてきており、他人ごとではなくなってきています。
第一生命経済研究所が2010年に行ったアンケート調査では、「自分のお墓が無縁化する可能性」について、「近いうちに無縁墓になる」と答えた人が4.1%、「いつかは無縁化する」と答えた人が50.3%で、合計54.4%と過半数の人が危機感を抱いていることが分かりました。
このような無縁墓が増加してきている実態や問題・課題点がマスコミなどでも取り上げられることにより、無縁墓化が社会問題としてクローズアップされ、このことも「墓じまいをしたい」という人が急速に増えてきている要因となっています。
墓じまいの手順
「墓じまい」=「改葬」は、以下の手順・手続きで行います。
1.家族・親族との相談
墓じまい・改葬をしようと思ったら、まっ先に行わなければならないのは、家族・親族との相談です。
お墓を新しく建てるにしても、引っ越すにしても、家族・親族の話し合いから始めなければ、後でトラブルになる可能性があるからです。
親族にとっても縁の深い人が埋葬されており、「お墓参りに行ったのに、知らないうちにお墓が無くなっていた」などとなると、トラブルになることは必至です。
そのようなことにならないよう、事前に了解を得るようにしましょう。
2.「墓じまい」のタイプを決める
一口に「墓じまい」と言っても、主に4つのタイプがあります。
現在の墓地管理者への相談の仕方や、引っ越し先をどのようにするかも、タイプによって変わってきますので、まずタイプを決めましょう。
タイプ1 骨壷(遺骨)と墓石をすべて移転する
一番丁寧な引っ越しの仕方ですが、費用も一番かかります。
引っ越し先の墓地のサイズやルールによっては、墓石を持ち込めないところがあります。
墓地探しも、今のお墓が入る区画を探さなくてはなりません。
タイプ2 骨壷(遺骨)だけをすべて移転する
墓じまい=改葬の中で、最も多いタイプです。
骨壺だけを移動させるので、費用はタイプ1より抑えられます。
タイプ3 一部の骨壷(遺骨)だけを移転する
カロート(納骨室)の中の骨壷のうち、一部だけを移転するタイプです。
そのため、墓じまいの後には墓が、古い墓と新しい墓の2基となります。
ただし、複数の遺骨を骨箱で一緒に埋葬している地域などもあり、その場合は特定の遺骨を取り出すのは難しくなります。
タイプ4 骨壺の中の遺骨の一部だけを移動する=分骨
一度埋葬した骨壷の中の遺骨の一部をお墓から取り出して分骨する場合は、今の墓地管理者から分骨証明書を発行してもらう必要があります。それがなければ、引っ越し先で納骨できません。
お寺によっては、分骨は認めないところもあります。
その他のタイプ
以上の4つの主なタイプのほか、他の選択肢もあります。
一つは、せっかく引っ越しても、将来、承継者がいなくなれば無縁墓になってしまいますので、永代供養墓にするという選択です。
また、引っ越し先には墓石を建てたお墓にしないという選択もあります。納骨堂、樹木葬墓地、散骨、手元供養、自宅供養などです。
※永代供養墓、納骨堂、樹木葬墓地、散骨、手元供養、自宅供養については、該当ページをご参照ください。
3.既存墓地管理者に相談する
菩提寺や霊園など、現在の墓理管理者に改葬を行いたい旨を相談します。
特に、寺院に墓地がある場合は、一方的に申し出るのではなく、まずは相談するという形から話を始めた方が良いでしょう。
お墓を移されることは墓地の管理者にとっては望ましいことではなく、特に寺院墓地の場合は、檀家から離れることなので、快く思われないことが多いからです。
そうした墓地管理者側の気持ちを察して、相談するという姿勢で話すとともに、「遠くてお参りに行けないので…」など、改葬の理由を、誠意を持って丁寧に説明します。
また、いままで長い間お墓を管理してもらい、お世話になった感謝の気持ちを持って伝えることにより、寺院側も納得した上で墓じまいすることが大切です。
4.新しい移転先を準備し「受入証明書」を発行してもらう
墓じまいするためには、既存のお墓のある市町村役所で改葬の許可を得なければなりません。
そのためには、遺骨を移す新しいお墓が決まっていることが必要です。まず、新しい墓地の準備をしましょう。
新しくお墓を建てる場合には、建てる墓の契約をします。墓が出来るまでには、3か月程度かかりますので留意しましょう。
移転先の墓地管理者から「受入証明書」または「墓地使用許可書」の発行を受けます。
5.「改葬許可申請書」を作成する
現在墓がある市区町村で書類を入手し、死亡者の本籍や改葬の理由などを記入します。
申請は、遺骨1体につき1通が原則ですが、複数の記入ができる書類を用意している自治体もあります。
用紙は、市区町村のホームページからダウンロードできるところが多く、郵送でも入手できます。
6.現在の墓地管理者の署名捺印をもらう
「改葬許可申請書」に墓地管理者の承諾をもらいます。
市町村が墓地管理者に「埋蔵・収蔵証明書」の発行を求める自治体もあります。
7.「改葬許可書」の発行
市区町村に「改葬許可申請書」と、移転先からもらった「受入証明書」または「墓地使用許可書」を提出し、審査してもらいます。
すると「改葬許可書」を即日で発行してくれるところがほとんどですが、数日かかる自治体もあります。
8.遺骨を取り出す
「改葬証明書」を現在の墓地管理者に提示して「閉眼法要」や「御魂抜き」と呼ばれる宗教的儀式を行い、遺骨を取り出します。
「閉眼法要」は、家族、親族を中心に、ごく内輪で行われるのが通例です。
遺骨の取り出しは、菩提寺・霊園の指定石材店が行うことが一般的です。
遺骨は、自宅や引っ越し先の墓地に仮安置します。
9.墓地の返還
墓じまいは、原状回復するのが基本です。
墓石を撤去し、跡地を更地にして墓地管理者に戻します。墓地の使用権を、返すことになります。
10.新しいお墓に納骨
発行してもらった「改葬許可書」と「受入証明書」または「墓地使用許可書」を新しい墓地の管理者に提出します。
「開眼法要」や「御魂入れ」と呼ばれる宗教的儀式を行い、納骨します。
「墓じまい」の費用
「墓じまい」=「改葬」の費用については、大まかに「現在のお墓にかかる費用」と「引っ越し先でかかる費用」に分けられます。
ただし、墓じまいのパターン(先にみた1~4パターン)やお墓のある場所などによっても費用は異なります。
また、引っ越し先が遠方だとその分の交通費などもかかります。
現在のお墓にかかる費用
解体・撤去費(支払先:石材店)
使用していた敷地は更地にして返すのが原則です。そのため、お墓の解体・撤去費用がかかります。
費用は、1㎡当たり10万~20万円位が相場です。立地的に工事がしにくい場所にお墓が建っている場合などには、その費用が加算されることもあります。
解体・撤去工事は、石材店に依頼します。その際、気をつけなければならないのは、寺院や霊園では「指定石材店」制度を設け、特定の石材店しか工事できないようにしているところが多いことです。現在のお墓の管理者に、事前に確認しましょう。
お布施(支払先:宗教法人)
現在のお墓が寺院にある場合は、これまで長い間、お墓を供養していただいたことに対するお礼の気持ちとして、お布施をするのが一般的です。
それが、墓じまいが増えてきたことに呼応して、最近は、檀家を抜けるために寺院に払うお布施という意味で「離檀料」と呼ばれるようになり、広まってきています。
お布施であるので決まった額はなく、それまでの寺院とのお付き合いの濃淡や、布施する側の気持ちなどによって異なります。
一般的には「法要時に渡すお布施の2~3倍くらい」と言われています。だいたい、5万~20万円、多くても30万円位といったところです。
どのくらいの額にしていいのか分らない場合は、石材店に相談すれば、地域や寺院の相場を教えてくれることが多いと思います。
運搬費(支払先:石材店・運送業者)
運搬費は、先に見た「引っ越しのパターン」と「運搬する距離」によって大きく変わってきます。
「引っ越しのパターン」では、「現在のお墓から、遺骨だけをすべて移転する」(パターン2)だけでなく、「墓石まで新しいお墓に移転する場合」(パターン1)は、墓石の運搬費用が多くかかります。
「運搬する距離」では、当然ながら長ければ長いほど、運搬費はかさみます。
ちなみに運搬は、現在のお墓の解体・撤去工事を行った石材店が行う場合と、移転先のお墓の工事を請け負う石材店が担当する場合があります。どちらが行うのか事前に確認しましょう。
引っ越し先でかかる費用
新墓の墓石・工事費用(支払先:石材店)
引っ越し先では、新しく墓石を建てたお墓にするのか、墓石以外のお墓や納骨方法(納骨堂、樹木葬墓地、散骨、手元供養、自宅供養)にするのかなどによって、お墓そのものにかかる費用や工事費用は大きく異なってきます。
永代使用料(支払先:お墓の管理者)
お墓を新しくする場合には、改めて使用する権利である「永代使用料」を支払う必要があります。
その他の費用
墓じまいには、その他に次のような費用がかかります。
許可書発行手数料(支払先:自治体、墓地管理者)
自治体や墓地管理者から発行してもらう各種許可書には、発行手数料がかかります。手数料は、すべて合わせて数千円以内です。
閉眼供養・開眼供養(支払先:宗教法人)
閉眼供養や開眼供養などの宗教儀式は、僧侶など宗教法人に行ってもらいますので、お布施を支払う必要があります。
お布施の目安は、墓地の運営主体(公営、寺院、民営)や宗教法人によっても異なりますが、1万~5万円が相場です。
「墓じまい」する時の留意点
「墓じまい」では、トラブルも起こっています。ある墓石業者が墓じまい経験者100人を対象に行った調査では、3分の1の人が何らかのトラブルを経験しているという結果も出ています。
以下では、多いトラブルとその対応策について説明します。
親族間のトラブルと対応策
墓じまいのトラブルの中で一番多いといわれるは、親族間のトラブルです。
「親戚がお参りに行ったら、お墓が無かったことに憤慨した」「引っ越し先が合葬墓と知り、誰ともわからない遺骨を一緒にするなんてと親戚から非難された」など、親族に予め相談しなかったことが原因のトラブルが多くなっています。
お墓には、承継者以外にもそれを大切にし、お墓参りをし、心のより所の一つとしている人がいるかもしれません、
墓じまいに当たっては、周囲の人にも配慮し、納得してもらった上で引っ越すことがトラブルを未然に防ぐ方法です。
離檀料を巡るトラブルと対応策
離檀料(お布施)を巡る寺院とのトラブルも多くなっています。
国民生活センターなどにも、「離檀料として250万円払うように言われた。納得できない、払う必要があるのか」などとの相談が寄せられています。
離檀料は、あくまで「お礼」ですから支払う義務はありません。仮に支払わなかったとしても、寺院は正当な理由なしに、墓じまいを拒否することはできませんので、最終的に墓じまいをすることはできます。
話がこじれてしまった場合は、行政書士などに依頼して、書類上の手続きだけで済ませることもできます。
しかし、いままで長い間お墓を管理してもらい、お世話になったことは事実ですから、寺院側も納得した上で墓じまいすることが望ましいあり方でしょう。
そのためには、先に述べたように、寺院には相談するという姿勢で話すとともに、改葬の理由を、誠意を持って丁寧に説明することが大切です。
そうすると、トラブルは格段に減るでしょう。
解体・撤去費に関するトラブルと対応策
解体・撤去費に関するトラブルも少なくありません。
「工事着工後に追加料金を請求された」「最初に聞いていた額と支払の時に請求された額が違っていた」などのケースです。
このようなことにならないようにするためには、まず、価格が明瞭で施工実績が豊富な業者を選ぶことです。業者の良し悪しを事前に知ることは難しいかもしれませんが、インターネットで調べるだけでなく、直接会って話をしてみることが大切です。
また、見積もり時には、お墓の写真や具体的な情報を渡したり、現場を実際に見てもらって正確に見積もってもらうことが重要です。
それでも、「実際に掘ったら、木の根が張っていた」「外柵を壊さないと作業ができなくなった」などで、作業費が上がってしまうこともあります。そうした場合にはどうするのかも、業者に予め聞いておきましょう。
そして、口約束だけでなくきちんと見積書を取り、契約書を交わすことが大事です。