終活

お寺と終活(1)
おひとり様が安心して弔われるために

私の終活

お寺からの相談
弔い委任のエピローグ

寺院デザイン 代表 薄井秀夫
私は、株式会社寺院デザインというお寺の運営コンサルティング会社の代表を務めています。
お寺の運営コンサルティングなんて、初めて聞く人も多いと思います。
お寺にコンサルティングなんて必要なのか? お寺の何をコンサルティングするんだ、なんかいかがわしくないか? などと考える人もいるでしょう。
実はお寺は、様々な問題を抱えています。
皆さんも聞いたことがあると思いますが、近年、直葬をする人が増えていると言われています。直葬、すなわち儀式をしないということは、お坊さんはいらないということです。
また墓じまいも増えていると言われています。墓を撤去してしまうということは、お寺から檀家さんが離れていくことにもつながります。
過疎地では、檀家そのものが減って、経営難に陥るお寺もあります。
現代のお寺はたいへんなのです。放っておくと、お寺の三分の一が無くなるという統計があるくらいです。
様々な問題を抱える現代のお寺。私のところに相談があるのは、お寺がそんな壁にぶつかった時です。

「直葬」とは
一般的な葬儀とは異なり通夜や葬儀・告別式などの宗教儀式は行わず、ご遺体を自宅や葬祭ホールなどで安置した後火葬場へ運んで身内だけで火葬する葬送スタイルを言います。宗教儀礼を行わずに火葬することから、「火葬式」「火葬のみ」などとも呼びます。
「墓じまい」とは
「後継者がおらず墓守がいない」「子供達が故郷から離れて生活しているので、地元に墓守がいなくなった」「お墓の管理・維持が大変」などの理由から、お墓を撤去したり処分したりする事を言います。

きっかけは、あるおひとり様の話

ある時、こんな相談がありました。
そのお寺は、都心から電車で一時間以内のところにある、ごくごく普通のお寺です。
ご住職によると、一月ほど前のこと、ある檀家さんが亡くなり、後見人と名乗る方から故人の葬儀をして欲しいとの電話がありました。
その檀家さんは、奥さんを十年くらい前に亡くして、一人暮らしをしていました。
数年前からは足が悪くなり、人の手を借りないと外出できないという状況でした。子どもがいないので、介護サービスの手を借りて生活をしていたようでした。
最期は肺炎をこじらせて、病院で亡くなったとのことですが、住職は、葬儀のことまでやってくれる後見人がいて、良かったね、と受け止めたようです。

ところが、葬儀を終えてしばらくして、他の檀家さんから、妙な噂を聞いたのです。

それは、葬儀の依頼をしてきた後見人と名乗る方のことです。
まず第一に、その方は、正式な後見人では無いとのことでした。単なるヘルパーさんで、ここ数年、ずっとお世話していた人だとのことです。
そして、そのヘルパーさんは、亡くなった檀家さんの貯金通帳の管理までしていたとのことでした。暗証番号を聞いて、お金の出し入れもしていたようです。亡くなった檀家さんは足が悪かったので、やむを得なかったのかもしれません。
そして、噂は、さらに続きます。
故人はもともと地主で、アパートを経営していました。そのアパートのいくつかが、つい最近売却されていたとのことでした。そして、どう考えても、アパートを売った金額は、故人が生活するためのお金とは思えないほど、大きな金額だというのです。
つまり、その噂をしている他の檀家さんは、そのヘルパーさんが、故人の寂しさにつけこんで、お金をだまし取ったんじゃないかと疑っているのです。
もちろん、これは噂です。
怪しいというだけで、証拠があるわけじゃありません。
ただ、法的な立場が無いにもかかわらず、貯金通帳など財産の管理を行うなど、ちょっと行き過ぎた行為も目につきます。
住職もこの話を聞いて、どうも「怪しい」と感じたようです。

悩んだ住職の決断

この事件(?)があって、しばらく住職は悩んでいたようです。しばらくして住職から私のところに連絡があり、お寺で相談を受けました。
今回のケースの真相はわかりませんが、こんなケースは現実にあっておかしくありません。
騙されていなくても、結局は晩年の生活や亡くなった後の葬儀・納骨など、誰かが面倒を見ないとならないのです。
亡くなった時には、誰かが、お寺や葬儀社に連絡し、誰かがお金を支払わなくてはならないのです。
おひとり様には、そうした人がいないのです。
住職はこの檀家さんの話をした後
「お寺が、こうしたおひとり様のサポートをすることはできないか。家族のいない人の、家族の代わりを、お寺がすることができないか。その仕組みをつくって欲しい」
という相談をしてきたのです。
住職の頭の中には、お寺が成年後見人をすることができないかという考えがあったようです。確かに、こうした方には、成年後見人がつくべきです。もちろん自称後見人ではなく、家庭裁判所が認めた成年後見人です。

こうして始まったお寺の「弔い委任」

この住職の話を受けて、このお寺で、おひとり様が安心して暮らし、死んでいけるための仕組みをつくるため、サポートを行うことになりました。
まずは数人の協力者を集めて、プロジェクトチームをつくります。
最も重要なのは法律の専門家です。その協力者として、地元の司法書士に加わっていただきました。そして住職の友人で、金融機関で長く仕事をしていた人にボランティアとして加わっていただきました。もうひとり、そのお寺の墓地の販売に携わっている石材店にも加わっていただきました。
このプロジェクチームが、実際に檀家さんを支援する実働部隊です。
そして皆でいろいろ話し合った結果、次の事柄をお寺で行うことになりました。

1)お寺で成年後見をうける

当人が認知症などになった時、家庭裁判所が指定する監督人のもと財産管理を行う。
つまり、預金などの管理を行い、お金の出し入れや、支払いなどを代理で行う。

2)施設入居時の身元引受人を務める

病院や高齢者施設に入るときに、身元引受人や保証人を求められることが多いが、その際に、できる範囲でお寺がそれを務める。

3)亡くなった時の喪主の役割をつとめる

家族のいないおひとり様は、亡くなった時に、喪主をつとめる人がいないので、きちんとした弔いをしてもらえず、直葬された後、行政の合葬墓に埋葬されてしまう可能性がある。
そうならないように、死後事務委任契約を結んで、葬儀や納骨を始めとする、死後に行わなければならない事柄を家族に代わって行う。

始めてみたら・・・

そして檀家さんにも、お寺がこうしたプロジェクトを始めたことを告知します。
すると、数人の檀家さんが、お寺に相談に訪れました。
そして、早速3人の檀家さんが上記のサポートを受けることになり、その後、1年に1〜2人ずつ増えてきました。
プロジェクトが始まってから既に5年以上が経過しており、お寺が看とった方も2人いらっしゃいます。
住職によると、
「お寺に相談に来た時には途方に暮れた感じだったが、話を聞いて、晩年も死後もだいじょうぶだとわかると、本当にうれしそうな顔をしてくれる。どうも、晩年の生活の不安よりも、死んだ後に『弔われない』ことのほうを不安に感じている人が多いようだ。お葬式をやってこんなに感謝されることは少ないが、このおひとり様支援は本当に感謝される。僧侶として、ほんとうに始めてよかった」
ということです。

お寺で終活相談!を目指して

私としても、こうした社会的に意義のあるプロジェクトのサポートは、ほんとうにやりがいがあります。
近年お寺も、これまでの葬儀や法事を中心とした活動だけでなく、時代にあわせた新しい活動を模索するようになりました。
実はこのおひとり様の支援の活動を行うお寺もぼちぼち出てきました。
個人的には、より多くのお寺が、この活動に取り組んでいただけたらいいなと思います。
この活動が社会の中で定着することができたならば、お寺の存在価値は飛躍的に高まっていくのではなかと思うのです。

ABOUT ME
桑原 侑希
桑原 侑希 大手葬儀社にて、10年以上葬儀業に従事し約2000件の葬儀を行ってきました。葬儀のことは勿論、ご葬儀までの終活の相談や、葬儀が終わった後のご供養方法、各種手続きについての相談を受ける内に、その道のエキスパートに。皆さんの葬儀・終活にまつわる「なぜ?」にお答えします。
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