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葬儀費用の見方や注意点
「葬儀について知りたいこと」を問うた消費者アンケート調査では、「費用について」がトップに挙げられることが多くなっています。
葬儀費用については、従来から「不透明」「高い」などの批判があり、近年では葬儀会社は見積りを行うことはもちろん、ホームページで価格をオープンにするところも増えています。
しかし、依然「葬儀会社によって費用の内訳がバラバラで分かりにくい」、「葬儀の相場が良く分からず比較しにくい」などの声が多く聞かれます。
そこで、ここでは葬儀費用の内訳と平均額についての見方や注意点について説明します。
葬儀にかかる費用の内訳
葬儀費用の見積もりには、主に2つの方法があります。1つは、葬儀に必要なものをひとつずつ加算していく「項目積み上げ方式」、もう1つは、葬儀を行う上で最低限必要な項目をセットにした「葬儀一式方式」です。
従来は、項目積み上げ方式が主流でしたが、葬儀一式方式の方が一般の人には分かりやすく、また個別に選ぶより面倒がないことなどから、現在では葬儀一式方式が主流になっています。
葬儀にかかる費用には、大きく分けると、この葬儀一式費用(葬儀会社に支払う費用)のほか、「接待費用(変動費)」「宗教者への謝礼」(お布施など)の3つがあります。
葬儀一式費用(葬儀会社に支払う費用)
葬儀一式費用(葬儀会社に支払う費用)は、葬儀を行う上で最低限必要な項目にかかる費用です。
「葬儀費用」「儀式費用」「葬儀本体費用」などと言われることもあります。
この費用は、寝台車や霊柩車などの車両費、葬祭会館などの会場使用料、祭壇や棺、遺影などの物品費用、葬儀会社の人件費などです。
また、火葬料等の火葬場使用料は、遺族が直接支払う場合もありますが、葬儀会社が立て替えて支払う場合も多く、その場合は、葬儀会社に支払う費用の中に含まれます。
接待費用(変動費)
接待費用とは、お通夜に来てくれた会葬者に料理をふるまう「通夜ぶるまい」「お清め」や、葬儀後に設ける宴席である「精進落とし」「お斎」「仕上げ」と呼ばれる飲食費用と、参列者からいただいたお香典の「返礼品」などにかかる費用です。
弔問に訪れた参列者の人数によって変動するため「変動費」ともいわれ、葬儀社からの見積もり書、請求書に含まれています。
宗教者への謝礼(お布施など)
宗教者への謝礼の主なものは「お布施」です。お布施とは、お通夜や葬儀・告別式での読経、戒名、火葬場随行、初七日(繰り上げの場合)法要などへのお礼を合わせたものです。
宗教者への謝礼としてはこのほか、「お車代」や、会食をしない場合は、「お膳料」を包むこともあります。
宗教者への謝礼は、喪主から直接お渡しします。葬儀会社が立て替えて、後で請求するものではありませんので、見積もり書や請求書には含まれていません。
葬儀費用を見積ってもらう時に注意すべきこと
葬儀費用の内訳を見てきましたが、見積書や請求書を発行してもらう時に、注意しなければならないことがいくつかあります。
「葬儀一式費用」等では2つのことに注意しよう
「葬儀一式費用」は、最近は、例えば家族葬の場合では、「家族葬一式料金」、「家族葬セット料金」「家族葬基本料金」などと表示する葬儀会社が多くなっています。
こうした表示は、消費者に誤解を与え、トラブルの要因にもなっており、2つのことに注意する必要があります。
「葬儀一式費用」は葬儀費用の総額ではない
注意点の1つは、これらの表示には、葬儀に必要なすべての費用が含まれているわけで
はないということです。
先に説明しましたように、葬儀には、葬儀一式費用のほか、「接待費」と「宗教者への謝礼」の費用がかかります。
「葬儀一式費用」に含まれるものは葬儀社によって異なる
注意点のもう一つは、「葬儀一式費用」に含まれるものは葬儀会社によって異なることです。
異なる主な要因も2つあります。
1つは、「葬儀一式費用」には葬儀会社が立て替える費用も含めるのが一般的ですが、立て替える費用は葬儀会社によって異なることです。
葬儀会社が立て替えるのは、自社で提供するものではなく、各業者へ「手配」をするものですが、自社で提供するか、各業者へ「手配」するものかは、葬儀会社によって違います。
先に、「葬儀一式費用」の中で火葬料等の火葬場使用料は、葬儀会社が立て替えて支払う場合も多いと説明しましたが、そのほか、霊柩車やマイクロバス、葬祭会館を自社所有していない葬儀会社も多く、それらの葬儀会社は車両費や会場使用料などを立て替え払いするため「葬儀一式費用」の中に含めています。
葬儀会社によって異なる主な要因のもう1つは、「葬儀一式費用」には、葬儀を行う上で最低限必要な項目が含まれているといっても、含まれているものと、含まれていないものは葬儀会社によって違うことです。含まれてない項目はオプションとなっており、追加料金が発生します。
以上の2つの要因によって「葬儀一式費用」に含まれるものは葬儀会社によって変わりますので、見積もり額が、例えば「A社は70円でB社は50万円だから安い」とは言えないのです。
ですから、「葬儀一式費用」には、何が含まれて、何が含まれていないのかをきちんと確認する必要があります。
「接待費」等の変動費に関する留意点
飲食や返礼品などの「接待費用」は、参列者、弔問客の人数によって変わります。見積もり時の想定より多くの人が参列し、飲食や返礼品の数が増えれば、その分は追加料金となります。
葬儀会社の請求書を見て追加料金が予想外に多いことからトラブルになるケースもあります。
葬儀費用を予算内に収めようと思うなら、参列想定人数を出来る限り実際とかい離しないように想定すると同時に、接待費用の総額を見積もってもらうようにしましょう。
接待費用のほかに変動する費用として、故人を病院から自宅、葬祭会館へとお連れする寝台車や、葬儀会場から火葬場までお連れする霊柩車などの車両費があり、これらは移動距離によって費用が変動します。
また、ドライアイスの使用量と費用も、火葬までの日数や気温、安置の状況などによって変動することがあります。
これらの変動費も、見積書にはどのように見積もられているのか留意しましょう。
変動費は、その内容が不確定であることから、葬儀一式セット等に、予め入れておくことは難しいとされてきました。
しかし、最近では、飲食などの必要な変動費を含んだ葬儀一式セット等も出てきています。
これらのセットには、必ず「参列者15名まで」とか「○○式場利用の場合に限る」などの条件が書かれています。
設定した変動費の範囲内であれば、追加料金なしで提供するということですので、参列者がオーバーしたり、そのため式場の変更が必要になったりすると追加料金が発生します。
このように、変動費はどのようなケースでもかかってきますので、葬儀を依頼する前に、必ず変動費を含めた葬儀費用の総額を見積もってもらうようにしましょう。
「お布施」の留意点
「お布施」には、一般的に次の3つがあります。
・法施:正しい仏法の教えを説き、精神的な施しを行うこと。
・財施:出家修行者等に財物、衣食などを与えること。仏教の教えへの感謝を表し施す。
・無畏施:不安やおそれを抱いている人に対し、安心の施しをすることや、困った人に対し親切を施すこと。
葬儀においては、僧侶は「法施」を施し、これに対して遺族は感謝して「財施」で応えるという関係です。
ですから、お布施は、読経や戒名に対する対価ではなく、あくまで感謝の気持ちです。
僧侶の中には、自分から金額を言って請求する人もいるようですが、感謝の気持ちですから、無理のない範囲で「財施」をすれば良いのです。
しかし、そうは言っても、葬儀で一番困るのは「お布施の額」という声が多いのが現実です。
お布施の額は、寺院の格式、地域、宗派、住職の考え方、寺院とのこれまでの付き合い方、戒名の位(ランク)など、様々な要因によって変わります。特に戒名の額は、宗派や戒名の位によって大きく異なります。
ですから、一番良いのは、お付き合いのあるお寺(宗教者)がある場合は、直接尋ねて
みることです。お布施の額を、お寺に直接相談するのは失礼に当たるのではないかと心配
する方もいらっしゃいますが、何も知らないで包むより、分らないことは質問した方がト
ラブルなどを未然に防げます。
お寺に直接尋ねても「お気持ちで結構です」と言われた場合や、お付き合いのあるお寺
がないような場合には、葬儀を依頼する葬儀会社に、その寺院や地域の一般的なお布施の額を聞いて参考にすると良いでしょう。
葬儀費用の平均額と注意すべきこと
葬儀費用の平均額は、どのくらいなのでしょうか。ここでは、3つの調査データを取り上げて説明します。
日本消費者協会調査
葬儀費用の平均額としてよく用いられているのは、一般財団法人「日本消費者協会」が実施している「葬儀についてのアンケート調査」報告書です。
この調査は、3~4年に一度実施されており、最新のものは第11回調査報告書(2016年調査実施)です。
これによると、次のような結果でした。
3つの費用項目は、先に説明した「葬儀費用の内訳」とはちょっと違います。
返礼品は、先の「葬儀費用の内訳」では、「接待費」の中に入っていましたが、日本消費者協会調査では「葬儀一式費用」の中に入っています。
この調査結果が、マスコミや葬儀情報サイトなど多く用いられているのですが、しかし、これを平均額として用いるのはちょっと疑問です。調査の回答者数が少ないからです。
第11回調査報告書の「葬儀費用の合計」の回答者数は491人でした。3つの費用項目の回答者数はさらに少なく、「葬儀一式費用」329人、「通夜からの飲食接待費」261人、「寺院への費用」は330人にしかすぎません。
2016年の死亡者数は129万6,000人ですから、「葬儀費用の合計」の回答者数491人でも死亡者数の0.04%でしかないのです。
ですから、日本消費者協会の調査結果を平均額とするのは疑問で、あくまでひとつの参考価格として扱うべきデータです。
葬儀関連民間会社の調査
葬儀費用平均額の調査を行っている葬儀関連の民間会社もいくつかありますが、ここでは代表的な会社の調査を紹介します。
消費者向け葬儀情報サイト「いい葬儀」などを運営している東証一部上場企業の(株)鎌倉新書は、「お葬式に関する全国調査」を実施しています。
第3回調査(2017年調査実施)の葬儀費用の平均額は、次のような結果でした。回答者数は、日本消費協会調査の約4倍の1,999人です。
日本消費者協会調査とは調査項目が多少違いますが、日本消費者協会調査の「葬儀一式費用」と「通夜までの飲食接待費」を足したものと、鎌倉新書調査の平均総額は、ほぼ同じ費用項目を調査対象にしたものとみなせます。
日本消費者協会調査の2項目の足すと152万円、これに対し鎌倉新書調査の平均総額は178万2,000円ですから、後者の方が26万2,000円多くなっています。
経産省の「特定サービス産業動態統計調査」
消費者を対象にした葬儀費用の調査ではありませんが、経済産業省が葬儀会社を対象に実施している「特定サービス産業動態統計調査」のデータを用いて、葬儀費用の平均額を推計することができます。
この調査では、調査対象の葬儀会社の事業所の「葬儀取扱い件数」と「売上高」を調査しています。
このデータをもとに、2017年の調査対象事業所の葬儀の平均単価(1件当たり売上高)を計算すると、140万5,000円となります。
この平均単価の調査対象項目は、日本消費者協会調査の2項目を足した152万と、鎌倉新書調査の平均総額178万2,000円とほぼ同じとみなせます。
では、152万円、178万2,000円、140万5,000円のうち、どれが実際の葬儀費用の平均額に最も近いのでしょうか。
それは、特定サービス産業動態統計調査の140万5,000円です。
なぜなら、この調査に回答している葬儀会社の事業所数は、全事業所数の2~3割を占めていると推定できるからです。日本消費者協会調査や鎌倉新書調査の回答者率に比べて圧倒的に多いのです。
しかも、この調査に協力している葬儀会社は、大手や売上高が比較的好調なところと思われます。従って、全葬儀会社の葬儀平均単価=消費者が負担する葬儀費用の平均額は、140万5,000円よりさらに少ないと推定されます。135万円程度かもしれませんし、130万円程度が妥当かもしれません。
葬儀業界を知る人間の実感としても、葬儀費用の平均額としてよく用いられている「日本消費者協会調査」の平均額152万はちょっと高すぎると感じます。