手続き / 相続

亡くなった後のことを第三者に依頼できる死後事務委任契約とは?費用と文例

死後事務委任契約とは?

委任者(自分)が生前から、自分が亡くなった後の事務手続きの代行を受任者(第三者)に依頼できる契約です。病院への支払い、葬儀・埋葬の手配、家や遺品の整理など幅広い項目をカバーできます。

どんな人が依頼するの?委任者の背景とニーズ

最近では「介護施設へ入所するのでもしもに備えたい」「役所やお寺に相談して、死後事務委任契約を知った」という方々のご相談も増えています。

・死後の手続きを託す配偶者や子どものいないお一人様
・自分の葬儀や埋葬方法を、自分で決めておきたい方
・何も決めないまま子どもや親族に託すのは申し訳ないという方
・兄弟姉妹が同年代のため負担をかけたくないご高齢の方
・親族が疎遠/遠方/海外在住のため、頼みづらいという方
・相続人同士がもめそうなので、信頼できる人に意思を託しておきたい方
・親族以外の身元引受委託サービスを使って高齢者住宅や介護施設に入所した方

逆にいうと、死後事務委任契約が必要ないのは「死後の手続きを丸ごと任せられる、親密かつ健康な家族がいる方」といえるでしょう。

どんなことを頼めるの?死後事務委任契約の事例

ご本人が亡くなった後の、このような手続きを依頼できます。費用は一定の額を信託金としてお預かりし、受任者が支払いを代行します。

親族・友人・知人などへの死亡連絡を頼みたい、メッセージを託したい

「死亡時はこのリストに連絡をしてほしい」「この人にこの手紙を渡してほしい」など、ご希望に沿ってご連絡します。死亡時にどの範囲までお知らせをするかによって、葬儀の規模が変わる場合があります。火葬のみの直葬なのか、家族葬なのか、形式も含めて考えておくと良いでしょう。

遺体の引き取りを頼みたい

日本では、病院で亡くなる方が約8割といわれます。入院中に亡くなられた場合、受任者は病院から安置場所への搬送をした後、葬儀や埋葬の準備を始めます。ご自宅などで亡くなられた場合は、搬送先での医師の死亡確認、警察の検視・現場検証などにも対応します。

身内の力を借りずに、葬儀や埋葬(お墓・納骨・散骨)をしてほしい

通夜・告別式の手配、お骨の引き取り、お墓・納骨堂・永代供養の手続きなどを代行します。近年はお墓を持たず、海などへの散骨を希望される方も増えています。

病院の医療費・老人ホームなどの費用を清算してほしい

入院中の病室、入居していた部屋の片づけ、費用の清算を代行します。

役所への届けをしてほしい

死亡届、戸籍の手続き、年金・健康保険の資格喪失手続きを代行します。相続がある場合、のちのち遺産分割協議書に必要な戸籍謄本の取得などが必要になりますが、遺言書作成と同時に法律の専門家にこの項目を頼んでおくと、手続きもスムーズです。

公共料金や各種契約の精算・解約を任せたい

水道・ガス・電気・携帯電話・インターネット回線などの解約、残った使用料の精算を代行します。

家賃・敷金の清算、家の処分をお願いしたい

賃貸住宅の家賃清算や退去手続きを代行します。借地だった土地を更地に戻して地主に返すなど、持ち家の処分も可能です。

家財の片づけや遺品整理をお願いしたい

遺品整理業者への見積もり、立ち合い、支払いまで代行します。委任者のご家族(相続人)のご希望があれば、お立会いいただくことも可能です。

スマートフォンやPCなどを処分してほしい

保管場所と台数を伺った上で、「遺品整理」の一環として、物理的な処分を代行することができます。
ただし、写真や日記、資産運用データなどが詰まった端末は「デジタル遺産」と言われ、安易に処分するとご遺族が困るケースもあります。もしものことを考えて、データを残したい人にはあらかじめログインURL・ID・パスワードのリストを渡しておくことをおすすめします。

死亡した後、「ネット口座や株取引の取引業者のリストとIDを家族に知らせてほしい」「FacebookなどSNSのアカウント閉鎖を友人Aに頼んでほしい」といったご依頼は、「死亡連絡」の一環として承ることができます。

参考:あなたの最期の時 その「デジタル遺品」大丈夫?(日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事 萩原栄幸)
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20160527-OYT8T50028.html

飼い主がいなくなったペットの世話を頼みたい

負担付贈与(ペットを飼ってくれる人にお金を渡す)という形で、新しい飼い主を探す代行をします。単身でペットを飼っており、ご自宅で亡くなる心配のある方は、セキュリティ会社や宅配業者の見守りサービスを利用されることをおすすめします。

勤務先への退職手続きを代行してほしい

現役で働いていた委任者の依頼があれば、退職の事務手続き、職場からの私物の引き取りを代行します。

死後事務委任契約とほかの契約との違い

通常の委任契約の定義では、「契約者が亡くなると無効」となり、かつ「死を起因とする契約は結べない」ことになっています。しかし亡くなった後に自分の意志を示せる手段として、「遺言」と「死後事務委任契約」の2つは有効です。中でも死後事務委任契約は、死後も有効な「代理権」を付与できるのが特徴です。違いについて解説します。

遺言は自分に処分権限がある「財産」に関してだけ有効

遺言書は「財産の分与や処分に関する内容」にのみ、法的な効力を発揮できます。財産以外の希望を書き残すことも不可能ではありません。しかし問題は2つあります。

遺言書はすぐ開封されないケースが多い

遺体や遺骨の引き取り、葬儀の希望などを遺言書に書いたとしても、葬儀終了後に開封された場合は時すでに遅し。希望はかなえられません。

遺言書は一方的な性質のもの

遺言書の場合、「Aに喪主になって葬儀を取り仕切ってもらいたい」と書いても、仮にAさんが「やりたくない」といえばそれまで。手続きに関して遺言に書き残しても、実行力の弱い「希望」に終わることが多いのです。

死後事務委任契約は、受任者が「手続き」の実行を約束する契約

一方、死後事務委任契約は、亡くなった後の「事務手続き」を第三者に代行してもらうものです。委任者(本人)と受任者(司法書士など)が合意して成立する「契約」なので、受任者は必ず実行しなければなりません。

なぜ遺言書作成と一緒に依頼したほうがいいの?

よく言われるのが、「死後事務委任契約は遺言とセットで法律の専門家に依頼したほうがいい」ということ。それはなぜでしょう?

委任契約で依頼できる「入院費の支払い」や、「葬儀の依頼」「遺品整理」などは費用が発生します。一般的には、ある程度の額(50万円~100万円)を受任者に預けておく(信託する)ケースが多いのですが、不足分や残金が出た場合、相続人とお金のやり取りをする必要があります。だからこそ、「〇〇費として金〇〇円を信託しており、過不足分は相続人Aと精算する」など明確にしたうえで、遺言書作成と同じ法律のプロに依頼しておくほうがスムーズなのです。
また前述したように、死亡時の手続きと並行して、役所周りを任せられるので、相続にあたっての遺族の負担が減らせます。

トラブルを防ぐには?死後事務委任契約の注意点

死亡後の紛争を防ぐためにも、下記に注意しましょう。

認知症になった後では契約は結べない

認知症になってから後に結んだ契約は無効になります。「もう少し後でもいいな」「妻(夫)が亡くなってから考えよう」と思っていても、いざというときに判断能力があるとは限りません。成年後見制度で、自分が認知症になった後に財産管理などをしてくれる成年後見人(補助人・保佐人)を選ぶのも、同じく「認知症になる前」が鉄則です。
そこで、心配が生じた時に、まずは専門家に相談されることをおすすめします。一度契約を結んでも、内容の書き換え・更新はいつでも可能です。

公正証書として残しておくほうが望ましい

死後事務委任契約を結んでも、相続人の強い反対があった場合などは、必ずしも実現できるとは限りません。しかし「公正証書」として残しておくことで、公証人法・民法などの法律に則った「故人の意思の表明」となり、実行力が高まります。

また、「公文書」になるので、信託金が相続財産と混同されたり、使い込まれるなどの不正が起こるリスクも低減できます。

親族がもめそうな時ほど、法律の専門家を味方に

死後事務委任契約は、「故人の遺志を最大限尊重する」という原則に基づきます。ただ、親族同士は利害が反する場合も多いもの。葬儀一つとっても、宗教やお墓への考え方、業者・プラン選びでのトラブルになることがあります。

実際に、死後事務委任契約で埋葬を託された受任者(僧侶である親族)が、別の親族・相続人と祭祀の方法を巡って意見が対立し、交付金の返還を求めて訴えられるというケースも発生しています。

親族間でもめそうなときは特に、「死後の代理人」として法律の専門家を立て、公正証書にしておくほうが安心です。

希望があれば細かく指定し、実行できない場合の文言も入れる

希望があれば、葬儀社、喪主、宗派、形式、墓や散骨はどうしたいかなど、細かく記載しておくほうが良いでしょう。ただ、死亡時には「喪主に指定した人が先に亡くなっていた」「指定した葬儀社が倒産していた」など事情が変わっているかもしれません。「葬儀一切を〇〇(受任者)に依頼する」といった一文は必ず入れるようにします。

死亡後すぐに受任者に連絡がいく流れを作る

少しでも早い段階で受任者に連絡がいくよう、契約の概要と連絡先を
・家族に伝えておく
・入所している施設・病院に伝えておく
・複数の親しい人に伝えておく
・冷蔵庫に貼っておく
・財布に入れて持ち歩く
など工夫しておきましょう。

どんな人に頼めばいい?死後事務委任契約の受任者選び

大切な死後の手続きを頼む受任者。選ぶポイントを3つご紹介します。

個人ではなく法人事務所を選ぶ

前述したように「契約」は基本的に「死亡したら終了」が原則。一対一の契約では、いざという時「委任者より先に受任者が死亡していたので無効」となってしまうリスクがあります。また、監査の目が行き届かない個人(個人事務所)を受任者にして、信託金を着服された事件も実際に起こっています。複数の法律の専門家が実務に関わっている「法人事務所」が最適といえるでしょう。

相続の実務経験を確かめる

死後事務委任契約は、相続と連動した手続きが多いもの。遺言・相続分野は専門性が高く、弁護士に依頼しても、「相続の実務は専門の司法書士に委託(外注)している」というケースが少なくありません。相続に詳しく、高齢者の実情をよく知る司法書士法人なら、契約の“穴”を防ぎやすいといえます。

信託会社との提携/NPOの運営母体を確認する

着服を防ぐため、しっかりと信託金を信託会社に預ける事務所かどうか、契約前に確認しましょう。また高齢者支援のNPO(非営利団体)などの場合、運営母体までしっかり調べ、契約を継続できる体制なのか確認する必要があります。

死後事務委任契約の文例

文例(ひな形)です。こちらは書式の参考であり、個別の契約で内容は変わります。

死後事務委任契約
(契約の趣旨)
第1条 ●●さんと○○さんは、以下のとおり死後事務委任契約を締
結します。
(●●さんの死亡による本契約の効力)
第2条 ●●さんが死亡した場合においても 本契約は終了しません。
また、●●さんの相続人は、委任する人である●●さんの本契約上
の権利義務を承継するものとします。
(委任事務の範囲)
第3条 ●●さんは、○○さんに対し、●●さんの死亡後における次
の事務(以下 「本件死後事務」と 、 。 いいます )を委任します。
① 行政官庁等への諸届け事務
② 献体、葬儀、火葬、納骨、永代供養に関する事務
③ 生活用品・家財道具等の整理・処分に関する事務
④ 医療費、入院費等の清算手続きに関する事務
⑤ 老人ホーム等の施設利用料等の支払い及び入居一時金その他残
債権の受領に関する事務
⑥ 公共サービス等の名義変更・解約・清算手続きに関する事務
⑦ ペットの施設入所手続き
⑧ 以上の各事務に関する費用の支払い
2 ●●さんは、○○さんに対し、前項の事務処理をするに当たり、
○○さんが復代理人を選任することを承諾します。
(献体・葬儀・火葬)
第4条 第3条の献体及び火葬は、献体登録先の大学で行ってくださ
い。万一、献体が行えなかっ た場合は、○○さんが指定する斎場
にて葬儀を行い、火葬を行ってください。
(永代供養)
第5条 第3条の納骨及び永代供養は、○○宗■■寺 派▲▲▲寺にて
執り行ってください。
(ペットの施設入所)
第6条 第3条のペットの施設入所は、■■■(事務局□□□)に依
頼してください。
2 前項の入所期間は終身とし、費用は一括前払いとしてください。
(連絡)
第7条 ●●さんが死亡した場合、○○さんは、速やかに、●●さん
があらかじめ指定する親族等の関係者に連絡してください。
(預託金の授受)
第8条 ●●さんは、○○さんに対し、本契約締結時に、本件
死後事務を処理するために必要な費用及び○○さんの報酬に
充てるために金▲▲▲万円を預託します。
2 ○○さんは、●●さんに対し、前項の預託金(以下 「預託 、
金」といいます )につい 。 て、預り証を発行します。
3 預託金には、利息を付けません。
4 預託金のうち金▲▲▲万円をペットの終身入所費用に充てる
こととします。
(預託金の定期返還)
第9条 ○○さんは、●●さんに対し、本契約締結後から1年
が経過するごとに、ペットの終身入所費用の減額分返還のた
め、金▲▲万円を●●さん名義の金融機関の預金口座に振り
込む方法により支払うこととします。支払いに要する費用は
●●さんの負担とします。
2 万一、●●さんより先にペットが死亡したときは、○○さ
んは、ペットの施設入所費用として預託していた費用の全額
を●●さん名義の預金口座へ振り込む方法で返還して支払う
こととします。支払いに要する費用は、●●さんの負担とし
ます。
(費用の負担)
第10条 本件死後事務を処理するために必要な費用は、●●さんの
負担とし、○○さんは預託金からこれを支出することができます。
(報酬)
第11条 本件死後事務処理に対する報酬は、○○行政 書士事務所
の報酬基準によるものとし、本件死後事務終了後、○○さん
は、預託金からその支払いを 受けることができます。
(契約の変更)
第12条 ●●さん又は○○さんは、●●さんの生存中 、いつでも本
契約の変更を求めることができます。
第13条 ●●さん又は○○さんは、●●さんの生存中 、次の事由が
生じたときは、本契約を解除することができます (次の事由省略) 。
(契約の終了)
第14条 本契約は、次の場合に終了します (次の場合省略) 。
(預託金の返還、精算)
第15条
(報告義務)
第16条 ○○さんは、本件死後 事務終了後1か月以内に、本
件死後事務に関する次の事項について、遺言執行者又は相続
人又は相続財産管理人に対し、書面で報告するものとします。
① 本件死後事務につき行った措置
② 費用の支出及び使用状況
③ 報酬の授受

出典:美濃加茂公証役場

ABOUT ME
桑原 侑希
桑原 侑希 大手葬儀社にて、10年以上葬儀業に従事し約2000件の葬儀を行ってきました。葬儀のことは勿論、ご葬儀までの終活の相談や、葬儀が終わった後のご供養方法、各種手続きについての相談を受ける内に、その道のエキスパートに。皆さんの葬儀・終活にまつわる「なぜ?」にお答えします。
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